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完璧は求めない。1人経営の小さな鮨屋が成功した内訳と失敗した常連客との契約

2019年5月19日に東京すしアカデミーの同窓会が開催され、ゲストスピーカーとして2ヶ月コース卒業生の信田健斗さんに開業にまつわるスピーチをしていただきました。

信田さんは100万円をクラウドファンディングで集めて若干26歳で「鮨しん」を開業します。そしてこの春、自身が経営する店を閉店しました。経営不振ではないのに閉店する理由とは?

まだ感傷的な気持ちが残る信田さんですが、「僕と同じ様な失敗をしてほしくない。皆さんのお役に立てるなら。」と、話していただけることになりました。貴重な失敗談。全ての寿司業界を志す方に読んでもらいたい記事になりました。

信田さん:こんにちは。宜しくお願いします。信田健斗と申します。信田の「信」という字をとって「信じる」と読むので「鮨しん」という名前で名古屋でやってました。

簡単に経歴からですけど、年齢は今28才です。大学出たのが24歳だったんですけどその年の10月から12月までの2ヶ月間すしアカデミーの125期を受講しました。卒業してからはタイで就活なんかもしました。

その当時、タイも寿司バブルだったので簡単に就職先が見つかったんですけど、ちょっとなんか周りと違うことがやりたいというような若さもあって、断ってしまって、日本に帰ってきて一年間で自分のお店を作ろうと目標を掲げていろんな取り組みをして参りました。

クラウドファンディングで100万円調達

資金を集めるためにクラウドファンディングを計画しまして、自分のストーリーを作るために日本一周すし旅を2016年8月にスタートさせます。2万円のお寿司屋さんを15件回って、いろんなところの大将にお話を聞きながら勉強しました。

その代わり日本酒バーで10ヶ月働いてその間にクラウドファンディング。そんなに高額ではないですけど、100万円くらい集めてお店をスタートしました。

そして2019年3月。先々月ですね。いろいろな事情があってお店を閉めているんですけど、それについてはまた後ほど申しあげます。

で、まず皆さん開業にとても興味があると思うんですけど、あくまでも一般の人から見たらなんで素人がやってんだというような見られ方、当然すると思います。

開業資金をいかに抑えるかに注力

その中でリスクをどれだけ抑えて、お店を始めるかがとても大事かなということを感じていたので、開業資金をいかに抑えるか。お店は当然作りこめば作りこむだけ、お金がかかってしまうんですけど、居抜きですね。とにかく安く始める。

器なども知り合いや、旅をする中で出会った人に格安で譲ってもらったり、ちょっとB級品とかを集めるような形で2万円くらいするようなお皿とかを1000円で譲ってもらったりとか、ちょっと欠けたりもしているんですけど、そういうのを集めて、開業資金をいかに抑えるかに注力しました。

開業資金の調達は先ほど申し上げましたけど、クラウドファンディングを使って、100万円くらい集めてですね。実際に絶対的に必要な冷蔵庫とか中古で買ったんですけど、この100万円で開業資金全部収まるくらい開業資金を抑えることできました。

クラファンで支援してくれた方が最初のお客さん

これ飲食業で考えたら、結構あり得ないような数字だと思います。だいたい1000万円は超えてくると思うんですけど、とにかく抑えるところは抑えて、自分のできる範囲でお店を始めました。

集客方法は全く後ろ盾のない状態でお店を始めましたので、話題性とそれから時代性といろいろなものを考えながら集客したんですけど。このクラウドファンディングっていうのも当時2、3年前ですね。

今では当たり前ですけどまだそんなに知っている人もいない段階で。すごく怪しいとか、なんでお金出さないといけないんだとか、友達にすごい頼んでも全然やってくれないとか、苦しいところもありました。

そんなときに、ホリエモンこと堀江貴文さんがすし屋の修行はどうなんだという賛否両論あると思うんですけど、そういう『多動力』という本を出したタイミングもあって、それを実際にやっているやつがいるぞと時代ともうまくマッチして。

お店を始める段階で120~130人くらいの人がクラウドファンディングで支援してくださいまして、その人達をプレオープンに招待する形で最初のお客さんにしました。

完璧を求めない

開業資金を下げるということに付随してなんですけども、リスクを減らすということで完璧を求めない、とにかく妥協点を見出してそれを特色に変えていく。この例は日本酒に特化したとかそういうのもあるんですけど。

ワインは一つひとつグラスに注ぐと時間がかかるので、とにかく日本酒は片口に注いでお客さんにやってもらうとか。日本酒に特化することで諦める部分は諦める。でも、それをマイナスとして表現するのではなくてそれを推しでやってますと、強みにする表現を意識しました。

お店の概要ですけども、12坪のジャズバーを居抜きで改装して使いました。キッチンは本当に狭くて、本当にここからこのスペースで人が2人入れないようなところでずっと仕込みをやってました。

6席の店を無理せずワンオペ営業

雑居ビルの4階で歩いている人が誰も気づかないような場所でやってました。資金を抑えるのにプラスしてですけど、固定費をどれだけ抑えるかというのが経営する面ですごく大事だったので。

家賃と光熱費が10万円っていう名古屋市のちょっと外れの新栄っていうエリアだったんですけど、その安い場所を選んで、固定費をまず10万円に抑える。物件譲渡も0円だったので、スタートするときすごく楽でした。

その分それをちょっと言い訳に、原価率を40%~50%まで上げることによって、お客さんに対してはすごくお得感が出るようなものを提供していました。おまかせで8000円の税+サービスで8,800円+お酒代が入って、客単価が11,000円から12,000円くらいのコースでやってました。

最低目標として月に100人のお客さんに来てもらうことはずっと達成してまして、手元に60万円くらいは最低限残るような感じで、多いと250万とか売る月もあったんですけど、そうすると120万くらいは手元に残るかなというイメージですね。

席数6席で2回転。でも4名から貸し切りOKにして、貸し切り需要がものすごくあったので。そういった需要もつけてですね、常に平均で毎日8人くらいお客さんが来てくれるイメージを目指してやっていました。

とにかくワンオペにして自分ができる範囲内のことをやる。完全予約制で大体売上が読めるような状況を作って、まぁそれから僕の大学時代の専攻もあって、英語と韓国語が接客するのに問題ないくらいしゃべれるので。

それをちょっとトリップアドバイザーに載せるとか、海外のお客さんをどれだけ入れていくのかというのも意識しました。で、お店の外景はこんな感じですね。

この中で買ったものというとほんとにお皿と椅子が中古で一脚3000円くらいの椅子。まな板とかもですね、知り合いからいただいたものを使ったりとか。本当にお金かかっているとこっていうとほとんどこの中だとそんなにないかなと思います。

でも、あえて伝統的な寿司屋さんと違うものを出すことによって、競争しないというところを意識して、なので安っぽく見えないっていうのは意識しました。

店での修行経験が無いことへの葛藤

店をやりながら、当然寿司の難しさをどんどん認識して、日々つらいこととか難しいことがいっぱいあって何かに追われるようなプレッシャーがありました。朝起きて市場に行って、それから準備をして、片付けをして、また次の日起きたら、市場に行ってというような繰り返しの日々が待ってました。

それはやりがいも感じるんですけど、当然体力的にもきつい日もありますし、大変なことが多いかなとは思います。寿司に対するお客さんのレベルの高さというのもすごく認識して。

僕もお店で働いた経験がないので、産地とかお酒に関してもこの銘柄がおいしいとか、僕より全然詳しいお客さんが多くて、客のレベルの高さと厳しさみたいのをすごく感じました。

客層の面白さとしては僕がこの26、27歳という年齢で絶対に交わることができなかったような大企業の社長さんが来てくださったり、そんな人達と2時間コースを提供しながら、お話できたというのは自分にとってすごい財産になったなと。そこも寿司の醍醐味かなと思います。

設備よりも体験に投資する

設備投資より体験に投資していくと書いてあるところは、設備はどんどん良くしようと思えば良くできますし、お店の場所の移転とかも考えている時期もあったんですけど、個人事業でやっていたので、設備を良くするとしても出来る範囲内が限られているというか、抜本的に変えることはできないのでできるだけ体験に投資にしていくと。

タイのバンコクが大好きなんですけど、そこに2ヶ月に1回通って料理人さんとお話をしたりとかそういったことをずっと繰り返し繰り返しやってました。それがこれからにつながってくと思います。それについては後ほど申しあげたいと思います。

お店をやったことでいろんな多くの仕事の話をいただくというところがあるんですけど、中部国際空港という名古屋の空港があるですけど、その中で寿司屋をやらないか、お金も出すからというようなお話をいただいたりとか。

海外でもやらないかと具体的に話が進んだわけではないですけど、そういった話も生まれてくる。そのお店を自分で出したというその事実が何よりそういった話をいただけた要因かなと思います。

口でお店をやるとか、そういうことは知識としても感覚としてもできるかなというはあると思うんですけど、実際に行動するというのが今の時代はすごく大事かなと思います。

現在無職ですが・・・

これだけ話してきましたけど、失敗談についても話したいと思います。現在無職です。お店をやっていたときのお客様に週末は出張寿司に呼んでいただいたりしながら、生計は立てているんですが。

個人事業主として2年目からはタイでうなぎ屋をやろうという話をしていて、うなぎをどこから入れるとか具体的な話まで進んでいて、常連だった人と一緒に会社を立ち上げました。

その人が社長、僕が社員という形で会社を作ったんですけど、どうしてもカウンター越しで仲良くなった関係もあって、お客さんとお店側っていう関係がどうしても切れずに言いたいことがなかなか言えない状況でした。

パートナーとの最初の契約は慎重に

給与形態、経費に関するところとか本当にフラストレーションがたまりながらやってたんですけど、途中で何かを変えるということがとても難しくて、そういう風になってしまったんだからと言われてしまえばそれまでで。

常連さんをオーナーにしてとか仲のいい人と何かをするってなったときに、本当に始める時っていうのがものすごく大事で契約書、給与形態、経費まですべて約束事を作ること。

それから具体的に将来どういう風にビジョンや夢を追いかけていくのかを共有すること。それがすごく大事かなと思います。知り合いでも友人とお店をやって、結構もめてる方たくさん見るので。

本当にスタートが大事で、最初に言いにくいことかもしれないですけど、友人だからこそお客さんだからこそ厳しくビシッと仕事の関係になるっていうところを忘れないように始めていただければなと思います。

本当に厳しいことあったんですけど、個人事業主ではできないようなことをいっぱいさせていただくこともできました。バンコクで居酒屋なんですけど、そこで僕をシェフとして呼んでくださって、イベントをやるとか。そういった良い部分もありました。

その時の経験、それから個人事業の時に二ヶ月に一回タイに遊びにいって体験に投資していたっていうのがあって、その時のご縁で6月から3ヶ月間ですけど、タイのバンコクに大阪の寿し芳っていうお店があるんですけど。

そこのバンコク出店の手伝いをしてほしいと言っていただいて、来月からバンコクに行ってまいります。これ関しても日本、名古屋でずっとやってるだけでは絶対にいただけなかったご縁かなと思いますので、体験に投資してきて良かったなと思います。

開業は結構リスクが高いような気がしますけど、すきやばし次郎の次郎さんも書いていましたけど、なんで寿司屋をやったの?への回答が『開業資金が安いから』っていう風に答えてました。

フレンチとかイタリアンとかだと、ものすごい調理器具を買わないといけないですけど、寿司屋で割り切るところを割り切ってやれば、包丁とまな板があれば開業できる可能性もあるっていうことで。

完璧を求めなければ開業リスクを抑えてスタートすることができるかなと思います。とにかくとにかく小さく始めるっていうのが、こうやってすしアカデミーを卒業していきなり開業するっていうようなことをするときには大事なのかなと思います。

安く始めて軌道に乗ってから移転、拡張。オーナーさんが付けばそれで設備投資もできますし、引っ越しもできるかなと思います。そういった次へのつながり、広がりという部分に関しても、お客さんに普通じゃ絶対会えないような大企業の社長さんがいたりとかいうことで、新事業の可能性がどんどん増えてくるかなと思います。

寿司屋では単価の高いっていう部分もすごく何も疑問に思わずに納得してもらえるというところ、予約制ということに関しても、納得してもらえるっていうのは他のフレンチやイタリアンに比べるとすごくラッキーなことと思います。

それから、海外の旅行客も『おまかせ』という言葉が当たり前に使われるようになっていてその経験をしたい人が来ると思います。昨日も予約の電話がタイからかかってきたりとか。辞めちゃいましたって答えたんですけど。

毎月今だに予約の連絡がきたりとか。ってくらい『おまかせ』の経験をしてみたいというお客さんがいるので。敷居はちょっと高いかもしれないですけど、あえてカウンターでおまかせで勝負するのかいいかなと思います。

まだまだSNS、インスタグラムとか流行っているので、そのすしのシンプルさっていうのが美しさにつながっているので今の時代にもまだまだ合ってるのかなと思います。なので、いろんなことを含めてもあえていきなり開業するっていうのはまだまだチャンスはあるのかと思います。

簡単ですが以上になります。

高野さん(写真中央):結局辞める原因となった大本は何だったんですか。

信田さん:いろんな複雑な部分が絡み合っていて、それが金銭面もそうですし、契約の部分とか働く時間とか、いろんなことが複合的に絡んでいるんですけど、結局は人間関係だと思っていて。

その人間関係っていうのが、お客さんとお店の関係をなかなか切れなかったこと、一緒にやるってなったところから割り切って会社員と社長っていうようなドライな関係にもっていかなかったっていう部分が甘かったかなと思います。そんな関係性の作り方だったと思います。

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