
ワンオペ、週3日だけの鮨屋。50歳から「無理なく、自分らしく、長く続ける」働き方
ーーー 上田さんは毎日楽しいですか?
うーん。大変ですけどね。変なストレスとか苦痛はないですね。慌てたりはしますけど。「やばい、やばい、やばい。」と思うけど、好きでやってるから。
50歳を目前に、大きな決断をされた上田厚太郎(51)さん。22年春期の週末コースの卒業生です。長年勤めた仕事を早期退職し、すし屋『肴菜と握り 初なぎ』を25年2月にオープンしました。
自宅兼店舗なので家賃はゼロです。人は雇いません。ワンオペ。しかも兼業です。金土日のみの営業で、他の週3日は東京都の非常勤職員をしています。
その狙いを尋ねると、「夢のない話ですよ?」と、断りをいれつつ…、20年先を見据えた堅実な経営戦略を聞かせていただきました。それは同時に『生き方』について考える時間でもありました。(取材日:2025/06/26)
兼業の寿司職人、その狙い
ーーー 開業おめでとうございます。
ありがとうございます。
ーーー お店の手ごたえはいかがでしょうか?Instagramにアップされている、カレンダーと予約状況を見ますと、開けている日は満席状態が続いてるようですね。
事前予約制でやらせてもらっていますが、今のところ、予約が1件も入らなかった日は1日だけしかないです。
ーーー すごい。
近隣の方が来てくれるかなと期待していましたが、その通りになりました。2回、3回と来てくれるお客さんもいるので、今のところは上手くいったかなと思っています。
ーーー カウンター7席のみのお店ですね。1日の客数は?
7人がバッと埋まっちゃう時もあります。一度に7人だと1人で回すと慌てちゃいます。6人までだったらなんとかできるんですが…。
ーーー 兼業的な働き方をされてますよね?
はい。週末の金土日だけ営業して、月火木は東京都の職員の仕事をしています。水曜はお休みです。
ーーー 忙しくないですか?
都の仕事も1日まるまる入れてるわけではないので、多少は早く帰ってこれますからね。ただ、金曜日にスタートする時が1番大変ですね。いろんな準備が1からになるので。
ーーー 繁盛されてますし、お店1本にしようっていう気持ちも湧いてきたんじゃないですか?
それは…ないですね。都の仕事も30年近くやってて、その仕事自体は嫌なわけではないし、それはそれで、続けていけた方がいいかなと思っています。
お店は孤独じゃないですか?1人でずっとやり続けるって。両方あるというのが自分には大切なんです。
店舗 兼 住宅 の お店
ーーー 自己紹介をお願いします。
上田です。もともと東京都の学校の教員をやっていたのですが、22年の春にすしアカデミーの週末コース入学を機に、教員は一旦退職して、(教員の)時短勤務で週4で働きながらすしアカデミーに通いました。
卒業後は、出張寿司の手伝いをしたり、同期生の仲間で開業する人がいて、そのお手伝いをしながら、自分の店の開業準備をしました。御社で講師アシスタントもさせていただきました。
ーーー お店はどちらに?
京王永山駅です。物件っていろいろな制約があるんです。土地の用途が飲食店をそもそもやっていいのか調べなくちゃいけなくて、都市計画とか、市役所とか建築管理課に電話で聞いて。
トイレ2つ、台所2つないと保健所から営業許可が下りないので。手洗い場も客用と自宅用で別にしなくちゃいけないとか。あと、角地でやりたかったんですよね。入口が目立つように。
とか、店舗兼住宅だと物件自体がそんなに出てくるものではないので条件に合う物件が出るまではひたすら探す毎日でした。
ーーー 当初は2024年の秋頃の開業を予定されてましたが、少し遅れてしまいました。どういった理由だったんでしょうか?
内装工事って遅れちゃうものなんですよね。 ここは店舗兼住宅なので、店だけじゃなくて、上の住居スペースにも内装を入れたので、その関係です。
やろうと思えば1月からできたのかもしれないですけど、知り合いも沢山いるし、プレオープン的な感じで1月はやって、2月から正式に開業しました。
ーーー 自己資金と借り入れとあると思いますが、どれくらいの期間で初期投資を返す計画ですか?
物件の購入と改修費用は、自宅マンション売却の資金の中で収める計画です。だから、借金はゼロ、家賃もゼロです。家賃に追いかけ回されたくなくて。人を使うのも難しいと思うので。
魚もあまり安いものを使いたくないので、家賃とか、人件費を原価の方に回して満足度を上げていきたいと考えてます。
メニュー開発について
ーーー どんなお料理が出るんでしょうか?
先付け、握り10貫、お椀、ちょっとしたデザートという、基本のコースの構成はあるんですけど、お酒を飲む人が多かったので、その日のつまみと、追加の握りを出すという感じです。
お寿司屋さんだと思って来るお客さんが圧倒的なので、アジのお刺身、イワシのお刺身、カツオのお刺身。アジのガリ巻き。ウニとか。オーソドックスなつまみが多いです。玉子焼きは、毎回焼くことにしてます。
先付けは、今だとハモの梅肉。ちょっと前だと桜エビ。あと、磯つぶの含め煮とか。4月はタケノコも出してましたね。その時期のもので、ネットとか、料理本を読んだり。市場にある魚からメリューを考えたりしてます。
ーーー 初めて作る料理もあるわけですね。
そうですね。大丈夫だなと思って作りますけど。味見てみないと分かんないんでね。1回テストして作って、これならいいかなって確認して出しますね。逆に定番だと、イカとかあればね、ゲソとかエンペラとか必ず出るから。イカの酢みそ掛けは、お酒飲む人はやっぱ食べますね。
ーーー イカが今、取れづらいと聞きました。
スルメイカは取れないですよね。あまりね。今はケンサキイカの時期ですけどね。高いですけどね。
ーーー 上がってますか?
高いですね、魚。イワシだけです。優秀なのは。
ーーー 自分で釣ったお魚の写真を、インスタにアップされてましたね。釣り仕入れに行ってきましたって。釣りは今も結構、行ってますか?
いや、なかなか忙しくて行けてないですね。お店を開けてからまだ2、3回ぐらいしか行けてないです。行くとしたら水曜日なんですけどね。水曜日に釣って、木曜日に寝かして、金土日で出す。
ーーー お店もあって、釣りもあって最高なライフスタイルですね。
80歳の出張すし職人から学ぶ
ーーー 河野さん(卒業生)の出張寿司のお手伝いはいかがでしたか?
10人超えてくると大変だから、上田さん来てほしいって呼んでくれて。5、6回入らせてもらいました。一番多い日は20何人前っていうのがありましたね。1人20貫ぐらいなので凄いことになりますよね。
ブログを読んで訪ねたそうです
ーーー 河野さんはもう80歳ですよね。凄いですね。20人の会を受けてるんですね。
あの量の仕込みを自分でやって持っていくのが凄いです。コンパクトに荷物がまとまって、車に全部収まるようになってるんですよ。
ーーー 東洋経済オンラインの河野さんの記事を見ました。ケータリングのお手伝いをされている上田さんも一緒に映ってましたね。
はい。写真を撮られたことに気付かないくらいバタバタしてました。
東洋経済オンラインより引用
ーーー 河野さんはお店には?
はい。オープンする前に1回と、オープンしてからも1回来ていただいてます。お料理について色々、感想を教えていただいて。安いんじゃないの?って言ってたけど(笑)
ーーー 上田さんは同期の方のお店の手伝いもされてましたよね。
彼は行動力が凄いんですよ。自分で酒を作りたいって、申請までして酒を作って、店もやって。あと、開業までのことも教えてもらいましたし、お店の営業も経験させてもらって、すごく勉強になりました。
段取り力は鍛えられましたね。何時にお客さん来るから、いつまでに切り付けをしなくちゃいけないとか、こちらが早く終わったら、あっちを手伝ってとか。
ーーー 現場じゃないと、身につかないことはありますよね。修行は同期の方のお店と、河野さんのケータリングだけですよね?
はい。ほぼそれだけですね。
28年の教員生活を早期退職
ーーー 大学を卒業してからは先生をされてたんですよね?
はい。東京都の特別支援学校の教員をずっとやっていました。27~8年やったのかな。
ーーー どんなお仕事なんでしょうか?
障がいの重い子から、普通の学校と一緒なので大学受験する子もいますし、後は医療的ケアとか特定医療従事者になってやりましたね。
ーーー 先生というと昨今、長時間労働のお話を聞きます。
長時間労働だと思いますね。どこからどこまでが仕事かというのは良くわからない仕事ではあるんですよね。
朝は8時半が勤務スタートなんですけど、その前に教室に行って準備を整えたりしますし、定時過ぎても学年通信作ったり、行事の計画を作る、年間指導計画、個別指導計画とか作るものは山ほどあるので。
趣味の釣りに夢中
ーーー ご趣味の釣りはいつから?
学校で働き始めたのと同じくらいですね。教えてもらって釣りをするようになって。そしたら、魚を捌かなくちゃいけなくなって、それを自己流で本とか動画を見たりして勉強したんです。そしたら見事にハマっちゃって。
近いところだと金沢八景とか、横須賀の佐島、葉山とか。あんまり千葉とか伊豆まで遠くまで行ってはやんないんですけど。船の免許を持っていて、借りてやったりもしてました。
ーーー 本格的ですね。お魚は何が釣れるんですか?
何でも釣れますよ。カワハギとか、キス、穴子、コチ、タコとか、甘鯛、タイ……
ーーー 穴子は釣れても捌くの難しくて困ったんじゃないですか?
船の船頭さんが釣れたヤツ全部、開いて渡してくれるので大丈夫なんですよ。骨と頭もちゃんと付けてくれて。特殊で難しいものだけやってくれる感じです。
店名について
ーーー 『肴菜と握り 初なぎ』の店名の由来は?
海に関係する名前をつけたかったんです。「初凪」って元旦の海が穏やかで、という意味の言葉らしいんですよ。それで「なぎ」も漢字にしたかったんですけど、『すごい煮干ラーメン凪』ってご存知ですか?
あれが多摩センターにあるんですね。だから、この辺で「凪」を入れたら、そっちが引っかかっちゃうんで「なぎ」はひらがなにしました。他と被らないように気をつけました。
あと、「酒」の「肴」で、家には「エルナ」という名前の犬がいるので、その「ナ(菜)」をくっつけて、という感じです。
生成AIを使って自分でデザインしたロゴマーク
最後まで色々考えて迷ったんですけど、開業届とか出すのに屋号を、いよいよ決めなくちゃいけなくて決めました。
ーーー 1日のスケジュールを教えてください。
営業日の朝は仕入れに行きます。8時、9時とか。前日に仕入れられるものは仕入れますけど、マグロは当日とりたいので。
ーーー 仕入れはどちらから?
多いのは府中の市場です。1番近いので。そこで、1時間くらいで仕入れを済ませて、店に戻って仕込みです。1番早い開始時間が17時半。終わりは一応、22時ということにしています。
遅くても19時までに入るお客さんが多いですかね。住宅街なので。都心で飲んで帰ってくると遅くなっちゃって大変ですし、近くで美味しく食べれたら帰りも楽で良いって。土日だと特に17時半とか18時スタートが多いです。
酒と料理のこだわり
ーーー お酒好きなお客さんが多いのでしょうか?
そうですね。皆さんお酒を飲むんで、基本コースを5000円で決めてしまって、お酒に合うつまみをお出ししている感じですね。
ーーー お酒は、料理との相性も考えてるんでしょうか?
いや、特別考えてはいないですね、正直言って。仕入れてる酒屋さんが凄いんですよ。日本酒の博物館みたいな酒屋さんなんで。そこで自分の好みのお酒を買ってくるんです。
でも、私あんまり、一般に辛口って言われてる酒が好きじゃなくて。でも、お客さんは辛口を求める方が多いので、自分の好みだけに寄らないように、辛口を買い足したりしてます。
ーーー 上田さんの好みは?
口で説明するのがね、私もお客さんに聞かれていつも困るんですよ。何と説明していいのか。今週出てたのはこんな感じですけど。今だと夏酒とか、見た目の瓶も綺麗だし。
ーーー 純米酒系が多いですかね?
そうですね。無濾過生原酒も好きなんですけど、やっぱり辛口がみんな欲しくなるんですよね。
ーーー 甘口の方が好き?
どっちかって言ったら甘の方が。はい。
ーーー 日本酒も奥が深いですよね。
そうですね。香りとか、酸の残り具合が何とかって、そういう説明は難しい。
インスタより口コミ最強
ーーー みなさんどれくらい使われるんでしょうか?
基本のコースが5,000円になっています。飲むお客さんだと、飲み物と追加のおつまみで、1万円行けばいいかなって感じですね。
ーーー 1万円行くんですね!最初のお話だと6,000円行けばいいかなという予測でしたよね。
5,000円のコースはかなり早い段階で決めていました。区切りもいいし。握りと、つまみと、お椀で、お酒飲まない人でも5000円だったら払ってくれるかなって。1万円は予想してなかったです。
ーーー 開業から5ヶ月です。うまくいってる部分と、課題と、両方見えてきたんじゃないでしょうか?
ワンオペなので、オペレーションの課題はありますね。うちは、完全予約制ですけど、7人がドンとまとめてくると、お好みの対応が難しいです。
常連さんだと、3000円プラスするので、お任せのつまみを何品か最初から人数分入れてくださいとか。結局そういうことになりますね。もう1つ、コースを作っておくかどうか……
ーーー プラス3,000円で、みたいな話はインスタのメッセージでやるんですか?
来てくれたお客さんが「次、何日に予約したいんですけど、今度5人で行きますから。」とか。
ーーー すごいですね。来たお客さんが次の予約をして帰っていくんですね。
そうですね。その辺はやっぱりね、この辺の地域性みたいな。口コミの口コミで来るお客さんが多いんですよ。もうね、インスタで広まるよりも口コミ最強だと思うので。
ーーー 立地も良いですよね。この辺はライバルがいないですもんね。
でもね、こっから数100メートル先に、1つ星のお鮨屋さんでやってた方が、お鮨屋さんやってるんですよ。単価が全然違いますけど。
ーーー 高級なお鮨はそちらに任せて。
そうですね。棲み分けはできてますね。でも、来たお客さんから「いや、あそこの寿司屋さんからね、近所にお寿司屋さんができたみたいだから、そっちにも行ってみなよ。」って勧められて来ましたとか言われて。
ーーー お勧めしてくれてるんですか?もしかしたらこっそり来てるかも。
いや、どうでしょう。他の個人で開業してる、飲食やってる人は来てくれましたけど。最初から名刺持って「うちも店やってて。」って。私もこの辺でポツポツ行ったところがあるんで。
ーーー 経営者のお仲間というか、顔見知りもできてきたんですね。
そうですね。市場で会う時もありますからね。
ーーー 地域に受け入れられている感じがします。
1人でうまく回すっていう課題はありますが、でも、そんなに急いで食べるお客さんもいませんし、お客さんには恵まれています。本当に。いいお客さんばっかりで。
ーーー 開業について、ご家族は?
そうですねぇ。最初はあんまり……。行きつけの店がありまして、自分の自宅の敷地内にちっちゃい店を建ててやっているようなところで。その店にも何度も一緒に連れて行って、こんなお店やってみたいんだけど、勘弁してくれないかって。説得して。
妻には正規で働いてもらっているので頭が上がらないんですけど。最終的にはすしアカデミーの入学を機に押し切ったという感じです。
ーーー 経営は順調そうですね。始まる前の不安は吹き飛んだ感じですかね。
そうですね。何ヶ月も予約が来なかったらどうしようかと思ってましたから。でも、予約がバタバタバタって来る時と、シーンとする時があるので、そういう時は心配になってきます。
ーーー そいうときに、都の仕事もあると気分転換になるということですね。
はい。最近は1日前まで予約を受けているので、直前までには予約も埋まってくるんですけどね。
お金を使うことに疲れてくる
ーーー お店を始めてからの心境の変化ってありますか?
心境の変化…?お金を使うことへの抵抗感というか……。サラリーマンを長年やってますと、お金を使わないけど、お金が入ってくる状態が当たり前じゃないですか。
でも、お店をやってると、毎日買い物するので、お金を使うことに疲れてくるっていうか。儲かっているのか儲かってないのか分からなくなってくるんですね。
でも、計算してみると、貰っている金額の方が大きいから、これは儲かっているんだなって。
ーーー 最初に出ていく額が大きくてビクビクしていたと?
そうですね。普通に会社勤めしてれば、出ていくのなんて、交通費ぐらいで。交通費もそんなにないですよね。このぐらいの小さい店でも、こんなに買い物があるんだと思いましたね。
だんだん慣れてきましたけどね。でもやりすぎないようにしないと。大丈夫だと思ってジャンジャン買ってると……
ーーー お酒は長持ちするし、最初に買っちゃいますよね。
お酒はそんなに心配ないんですけどね。お魚は余計に買っちゃうと…、まぁ、自分で食べればいいですけど、魚も高いですからね。
ーーー 経営者のマインドに切り替わってきている?
そうですね。
変なストレスはありません
ーーー 上田さんは毎日楽しいですか?
うーん。大変ですけどね。変なストレスとか苦痛はないですね。慌てたりはしますけど。「やばい、やばい、やばい」と思うけど。好きでやってるから。
ーーー 以前、お話を聞いた時はあまり、儲けたい気持ちがないとおっしゃっていましたね。
そうなんです。夢のない話ですみません。
ーーー いえ。そういうスタンスでお店をやりたい人って実はいっぱいいますからね。むしろ一番幸せな店舗経営だと思います。
1ヶ月、2ヶ月客が来なくても赤にならないし、潰れないのが自宅兼店舗の強みです。
ーーー 何歳まで働きたいですか?
お寿司は長く続けたいと思っています。お手伝いさせてもらった河野さんは80歳でも出張寿司を続けていて、そこまで僕ができるかはわからないですけど70歳まではやれたらいいですね。
お魚さばくのが好きなので、お客さんが食べてくれて、それができるだけ長く続いたら言うこと無いです。大変ですけどね。なかなか体力がいりますけどね。営業が終わった後が大変。
そこで一息つかないで全部片付けまでやっちゃうと心に決めてやってます。一息つくと、飲みたくなったりとか、お腹も空くし。
ーーー お腹空きますよね。17時から22時ですもんね。
お酒飲む方は23時までいたりするので。たまにね、飲んでくださいって。ご馳走になったりしますけど。
ーーー 洗い物終わるのは何時ですか?
片付けを1時間で終わらせて、24時にはゆっくりできるみたいな。でも、だいぶ早くなりましたよ。前は1時までかかってましたから。
ーーー 翌日はまた8時、9時ぐらいに仕入れ?
食材の残り具合にもよりますけどね。使えそうかどうかを見て。疲れてたらもうちょっと遅くても大丈夫です。1日目に準備ができていれば、2日目、3日目の準備はそこまで大変じゃないです。
1日目は大根も桂剥きして、つま打ちして。キュウリも桂剥きして、千切りしておいて、海藻は戻しておいてとか。エビを串打ちして、ボイルして開いてとか。
それを1日目にやらなくてはいけないので。それが終わっていれば心の余裕はあります。
ーーー これから開業を考えている人にアドバイスをお願いします。
開業って、どこかで思い切らなければできない事なので。自分も前々から開業したいとは思っていたんですけど、できないでいたので。スパッと仕事を辞めたことで覚悟は決まりました。あと、なるべく人に言うようにしてました。
仕事を辞めたら寿司職人になるって言ってると、あんな風に言っておいていつまでもダラダラ辞めないでいたらみっともないだろうって思って、自分に言い聞かせるみたいな。
特に我々のような年代だとね、若い人はバイタリティーがあるから進んでいけると思うんですけど。
編集後記
今後メディアからの取材依頼があった際に、お声がけしても良いですか?と確認すると、「忙しくなっちゃいますよね…?」と、不安気な様子の上田さん。それは、派手な成長よりも「無理なく、自分らしく、長く続けること」にこそ真の価値があるという、静かなメッセージの様でした。
上田さんは『自分をよく知っている人』です。理想の状態が何なのか分かっているし、それを阻む「不安」を取り除く方法を理解されています。家賃ゼロ、人を雇わないというコンセプトと、都の職員との「兼業」スタイルを貫いているのはそのためです。
そして、この営業活動の根っこには、長年続けてきた釣りへの深い愛着が存在します。だから、「いい魚を使って美味しい料理と酒を提供したい。」という言葉が信じられるし、お客さんに喜んでもらうことこそが、長く続ける唯一の方法であり、自身の喜びであるという気持ちが伝わってきます。
彼の働き方からは、自分らしく生きていくためのヒントが隠されている様に思います。『肴菜と握り 初なぎ』の情報は公式のInstagramをご確認ください。