
24歳の女性職人が銀座で鮨を握る 経験1年未満で大抜擢の理由
一年前、テレビカメラの前で『ロサンゼルスで寿司職人になる』ことを力強く宣言した女性がいます。池田絢香さん(24)。そんな彼女は現在、銀座の鮨屋でヘッドシェフを務めています。アカデミー卒業から1年も経たずにです。異例の大抜擢。何があったのでしょうか?
突然、大将が来なくなってしまったあの日。彼女が下した決断とは?逆境を乗り越え、銀座で自分らしい鮨のスタイルを築こうとする若き鮨職人と、女性経営者(佐久間めぐみ さん)にお話を聞きました。(取材日:2025/05/08)
卒業から1年未満で銀座でヘッドシェフ
ーーー 池田さん、佐久間さん。本日はお時間をいただきましてありがとうございます。
池田:ありがとうございます。
ーーー インスタを見ていましたら、池田さんの映像が流れてきてびっくりしました。カウンターに立って、お客さんの前で堂々とした感じで、手をポンってやってね。みんなでやりましょうみたいな。あれは何をされていたんですか?
池田:あれは木の芽ですね。
ーーー 木の芽の香りを出していたんですね。
池田:小鉢で筍の白和えを出してるので、その上に木の芽を皆さんでトッピングしていただく形でやってます。
ーーー 英語での接客でしたよね?アカウントを見ましたら鮨八さんで働いているのが分かって。しかも、アカデミー卒業からまだ1年経ってないのに。
池田:経ってないんですよね。
佐久間:えーー!?一年、経ってないの?いつからですか?
池田:5月のスタートです。
ーーー はい。それで、6月末までですよね。
佐久間:すごーい!
ーーー 卒業から、鮨八さんに入るまでの間に何があったんだろうと。
佐久間:1年以内で銀座で握るっていう。
ーーー そうです!気になってしまって、すぐ連絡しました。
池田:ありがとうございます。
ーーー 鮨八さんで働いていることは、同期の皆さんは知ってますか?
池田:知ってます。皆さんとインスタで繋がってますし、今でもお話する同期の子もいますので。
ーーー 鮨八さんは、名前を変えられたんですよね?以前は「鮨さくま」さん?
池田:はい。同期の本田はるなちゃんが先に働いていて。
ーーー そういう繋がりもあったんですね。
池田:元々「鮨さくま」の時に、はるなちゃんが働いてて。その時に自分がヘルプ?
佐久間:ヘルプで何回か来てくれましたね。
池田:それで「鮨さくま」を閉めちゃって。
佐久間:10月に閉めて、再オープンが1月なので。数ヶ月閉めてました。
ーーー 分かりました。後ほど、詳しく聞かせてください。
若いのに堂々としたスピーチ
ーーー 池田さんは在校中のことで印象的だったことってありますか?
池田:全部です。メンバーもそうですし。みんな個性豊かで、先生たちも全員面白くて、授業も楽しかったです。あと、テレビのインタビューも受けましたよね。テレビに出るの初めてだったので嬉しかったです。自分の夢を堂々と皆さんに言っちゃったので、叶えなきゃって感じですね。
ーーー TBSの取材があったんですよね。その時は、女性の寿司職人が増えているのはなぜか?というテーマの取材でした。池田さんと本田さんも取材を受けてくれて。ロサンゼルスに行きますと宣言していましたね。
池田:言っちゃった。
ーーー 放送はご家族は見られました?
池田:みんなにシェアしました。親戚一同。
ーーー 池田さんは、ハキハキとした口調で、お若いのに、なんて度胸がある方なんだろうって、びっくりしました。インスタの動画でもお客さんを前にして堂々としたご様子です。池田さんのこの物怖じしない感じというか、表現力というか、プレゼン能力の高さというのは、どうやって形成されたと思いますか?
池田:留学が大きいかもしれません。高校生の時にフィリピンに行きました。高1高2で、2週間ずつ行って。大学4年の時に休学して、1年間アメリカに行きました。アメリカでは多くの事を学びました。そして、自分らしくいることも学びました。
ーーー その時から英語は喋れてた?
池田:日常会話は大丈夫です。高校生の時のフィリピン留学が大きかったかな。自分の英語の覚え方が、あえて間違えて、みんなの前で恥ずかしい思いをして覚えるっていう英語の勉強をしてました。
ーーー それは度胸がつきますね。恥ずかしい思いを…… 恥ずかしいと思わなかったんじゃ…?
池田:そうかもしれない。
ーーー 間違えても恥ずかしいと思わないで、どんどん突き進んでったってことですよね。それは鍛えられますね。
池田:はい。
ーーー 前後してしまいますが、軽く自己紹介をお願いします。
池田:池田絢香なんですけど、去年の10月頃にちゃんと苗字が変わりまして。今はドミンゲス絢香です。24歳で、集中コース176期の卒業生です。今は「銀座 鮨八」というお鮨屋さんで握ってます。
ーーー アメリカ人の方と結婚されたんですよね。
池田:2022年の8月です。22歳の時に。大学生の時に結婚しました。
ーーー 佐久間さんも自己紹介をお願いします。
佐久間:佐久間めぐみです。私は外国人向けのグルメツアーの会社「株式会社Oishii」を10年やっていて、今年で11年目です。海外から日本に来られるお客様は、ミシュランガイドに掲載されるような美味しいお店は、自分たちで行けるんですけど、ローカルの方が食べてるものを食べたいという需要もあります。
そんな方たちを、煙もくもくの焼き鳥屋さんとか、the居酒屋みたいなところにお連れしています。東京で始めて、現在は、京都、大阪、金沢の4都市でツアーをしています。朝は築地や豊洲にお連れしているのですが、お寿司を作る体験がすごく流行っています。
そこで、お寿司屋さんと提携してやっていたのですが、アレルギーのある方とか、お子様とか、車椅子の方だったりとか。様々なニーズに対応するためには、お寿司屋さんと提携するよりも、自分がお寿司屋さんを作っちゃった方が早いんじゃないかと思いまして。ツアーでも使えますし。それでお寿司屋さんを始めました。
色々ありまして、名前を変えたり、一時期閉めたりもしていたんですけれども。今年の1月から「銀座 鮨八」として再始動しました。
USのグリーンカードを申請中
ーーー 昨年の6月28日にアカデミーを卒業してからのことを教えて下さい。池田さんは当時は、USのグリーンカードの申請をしていて、7月に渡航する予定だったと聞いています。
池田:はい。1回降りたんですよ。あともう1ヶ月ぐらいで審査結果が出るってなったのに、また元に戻っちゃって。卒業後にアメリカに行くために飛行機の予約も取っていたのに。でも、渡る前にはまだ時間がかかる事が分かって。それでも、とりあえずアメリカへ渡りました。自分の苗字を変えるのに必要な書類がアメリカにあったので、それを取りに行きました。滞在は1ヶ月ほどです。
ーーー 現地のお寿司屋さんへは行きましたか?
池田:行きました。お寿司屋さん巡りして。日本でいう、ちゃんとした握りの寿司を出すお店も行きつつ、アメリカのカリフォルニアロールとか、揚げちゃって、味の濃いソースをかけちゃうお寿司の店にも行きました。
ーーー ロサンゼルスでは寿司は人気ですか?
池田:すごいです。ロサンゼルスは特にアジア人も多いので。
ーーー 客単価ってどれぐらいになるんですか?
池田:300ドル?5万円ぐらい。いい所に行くと。カリフォルニアロールだと、ワンロール12ドル。
佐久間:それでも高いよね。1800円ぐらい。ニューヨークだとサーモンのお寿司が1貫で700円ぐらいするらしくて。
池田:でも、それでも、食べたい人はいっぱいいます。
ーーー 池田さんはロサンゼルスのお寿司は美味しいと思いますか?
池田:はい。美味しいです。大好きです。お寿司っていう呼び方は自分はしないですけど、カリフォルニアロール。スパイシーツナとか美味しいです。
ーーー 日本に戻られたのは?
池田:8月頃にまた日本に戻ってきて、苗字変えつつ、もうすぐアメリカに行けるだろうと思っていたので、短期のバイトを始めました。すし居酒屋さんみたいなお店です。そこでアルバイトをしていたら、同期のはるなちゃんから、「鮨さくま」にヘルプで来て欲しいと、同期のLINEグループに流れてきて。それが、めぐさん(佐久間さん)との出会いでした。
グリーンカードまだかな?まだかな?って待っているのですが、まだ降りなくて。2024年の11月頃です。大統領選挙の投開票が行われて、トランプさんが勝利して、なんとなく多分、まだかかるっていうのを察しまして。で、どうしようとなった時に、せっかく、すしアカデミー卒業したのに、全然、寿司の仕事ができてなくて。はるなちゃんに、めぐさんと繋いでもらいました。
佐久間:秋葉原のコーヒー屋さんで会いました。でも、彼女真面目なんです。今働いてるところはここまでの契約でやってるので、そこで働いてない日でもいいですかって。休みゼロだったよね?あの時ね。
池田:週7で仕事してました。それで、すし居酒屋を辞めて、今年の2月に完全に、鮨八にシフトチェンジしました。鮨八では基本ホールです。時間がある時に、たまにお魚を教えてもらったり。それで、その日が来ました。大将が消えた日が来まして。今こうなってます。
佐久間:色々ありまして、前の大将の方が突然いなくなっちゃって。
ーーー えー!
大将が来ない…
佐久間:今日の夜、予約入ってるのに大将が来ないって。絢香ちゃんにどうしようって言ったら、私やりますって言ってくれて。
ーーー え?カウンターに立つまでの準備期間は?
池田:当日です。朝。
佐久間:今日、大将が来ないらしいけど、予約入ってるけどどうする?閉めるのもできるけど、もしできるんだったら頑張ろうって。ランチは遊ぼうみたいな感じで。いきなりランチやったんだよね。
池田:はい。
佐久間:一応、3日間休むってことだったので、じゃあ3日間限定のランチで、1000円でデザートと味噌汁付きの海鮮丼。
ーーー 普段はどんなランチメニューだったんですか?
佐久間:銀座丼って作るのがすごく大変で。見栄えはすごくいいんですけど。
ーーー これですか?(名刺の写真)
池田:これです。
ーーー これは大変そうですね。食材もいいものが載ってます。
佐久間:準備が大変なんです。なので即席で、冷蔵庫開けてマグロいっぱいあるね。よし、マグロ丼にしようって決めて。彼女がランチに立ったらすごいお客さんがいっぱい来て。丼ぶりだけのつもりが、握りも食べたいですって外国人も来たんだよね。すごかった。でもこの人持ってるなと思って。
ーーー すごい。
佐久間:じゃあ、夜もやりますって言うので、いきなり夜も一人で堂々と握って、お客様も喜んでくださって。ランチやって良かったよね。そこで自信になったというか。
ーーー カウンターデビューは堂々とできたんですか?
池田:できましたね。
ーーー すごい!
佐久間:本人は緊張してたとか言ってたんですけど、すっごい堂々としてて。大丈夫だった?どうだった?って聞いたら「すごく楽しかった」って。
池田:楽しかった。
佐久間:やっぱり度胸があるんですよね元々。普通の人だったらビビりますよ。いやいや無理です。できませんっていうことをやっちゃうなんて。
修行という修行は…
ーーー 大将が居た頃は、お仕事は教えてくれたんですか?
佐久間:寿司屋のコンサルの方がいて、その方が来た時に指導をお願いしていました。前の大将の方は、教えるのが得意ではなかったので。大将が予約管理とか、システム系が得意ではなかったので、彼女にはどちらかと言うと、店長業務みたいな事をやってもらってました。シフト管理とか。でも、もうちょっと仕込みを教えてもらえますかってお願いして。ちょっとは仕込みをやらせてもらえるようになってたぐらいで。
ーーー 大将がいなくなった日のディナーはコースですよね?仕込みは?
池田:ある程度、小肌がもうあるとか、穴子も炊いたものがあるとか。その日にいっぱい捌かなきゃいけないみたいなのがなかったので。
佐久間:茶碗蒸しとか、一品とか小鉢は、裏で彼もいるし、彼女もやってて。
ーーー ある程度はコースのお料理は見よう見まねでできたと?
池田:はい。
ーーー すしアカデミーを卒業してから修行と言える修行っていうのは……?
池田:実はやってないんですよ。
ーーー すごい度胸ですね。
佐久間:それでもちゃんと堂々と握ってますからね。
ーーー サポートしてくださる方がいらっしゃるんですよね?コンサルの方が。
佐久間:一応いますけどそんなには来てなくて。あとは、知り合いのお寿司屋さんの方が教えてくれたり。一緒に、桜塩を作ってみようとか。ちっちゃい魚は2枚に重ねて握ってもいいよとか。そのぐらいですね。もう毎日、もがきながらやってるよね。
メニューの考え方
ーーー 「全20品 AYAKA鮨コース」について教えて下さい。メニュー開発はどの様にされているのでしょうか?
池田:みんなで一緒にやってます。
佐久間:今までは大将がいて、オーナーの私が意見言ってもあんまり意見を聞いてくれなかったんですが、今はみんなで、キッチンの子も、こういう風にした方が美味しいかなとか。今の魚の時期はサワラがいいんじゃない?とか。みんなで考えてる感じですね。
ーーー スタッフさんは何名体制ですか?
佐久間:常にいるのが絢香ちゃん。あとキッチンの男の子とホールです。キッチンの彼は和食をやってて。他でも働いてるので、夜しかいないんですけど。
ーーー お料理の方向性はどういったところから着想を得てくるんでしょうか?
佐久間:私は勿体ない精神から考えることがあります。魚を切った時に、切れ端がどうしても出ちゃいます。お寿司にならない部分。そこを細かく切ってグラタンを作っています。今までの大将の方って、自分のお金じゃないんでバンバン捨てるんですよ。イカ仕込んだらゲソ全部捨ててたとか。あとは、魚をさばいた頭で出汁を取って、最後の締めのお吸い物にしたりとか。
ーーー 大事なことですよね。
佐久間:あとは日本人の方なのか、海外の方なのかで、出すものを変えたりします。小肌とかアジとかもしかしたら苦手かもしれなくて。その辺は相談しながらやってます。
ーーー 池田さんは朝は何時に出社ですか?
池田:ランチの予約が入ったらやるっていう感じにしてて。その時は早くて9時半。ランチにはランチのメニューがあります。
ーーー ディナーの仕込みはどれぐらい時間かけてやるんですか?
池田:まだまだ慣れてないですし、急げ急げって自分の中で言いながらやってます。小肌10匹でも1時間ぐらいかかっちゃう。
ーーー でも、開始時間には間に合わせるんですよね?
池田:はい。そうです。
ーーー コース料理の内容を教えて下さい。
池田:例えば、小肌は授業でも習ったんですけど、小肌の飾り包丁の入れ方。男女でペアで来た時には、女性には三つ編みした小肌、男性にはかっこいい感じの扇型に入ったのを提供しています。あと、シャリに柚子をつけて握ってます。外から見えないんですけど、食べた時に柚子の香りが広がる小肌のお鮨です。
ーーー 美味しそう。
池田:あとは鯛の桜塩ですね。自家製の桜塩で。
ーーー 手間かけてますね。
池田:茶碗蒸しも鮨八スタイルで。まず半分ほど食べてもらって、その後にシャリ玉を入れて。リゾットみたいに食べていただくんですけれども。締めの一品は魚の切れ端でグラタンを作って、そこに酒粕が入ってるんですよ。超美味しい。
ーーー 今説明してくださったものだと、香りにこだわりがあるのかなと感じました。最初の木の芽もそうですし。
佐久間:スモークもやってるよね。瞬間スモーク。なるべく五感で楽しんでいただけるようにしたいねって話をしていて。
池田:スモークサーモンの握りにイクラを乗せて、親子握りをやってます。
ーーー 鮨八さんではインバウンドのお客さんも多いと思いますが、提供されているのは、日本ならではの握り寿司ですよね?
佐久間:はい。握りです。ただ、私もアメリカのお寿司屋さんで働いてたことがありまして、日本の寿司とは違うんですけど、それはそれで別の美味しさがあります。だから逆に、東京でLAスタイル寿司をやるのは面白いのかなとは考えてます。
向こうのお寿司を出してるお店って東京だとあまりないので。昨日も賄いで、シラチャー・ソースに青唐辛子とマグロを叩いて、スパイシーネギトロみたいな感じにして食べたらすごく美味しかったので。正当派もやりつつ。遊び心があってもいいのかなと考えてます。
ーーー 訪日旅行者の方は、握り寿司を食べてみたい人もいるけど、慣れ親しんだ味を欲しがる方もいるということですね。
佐久間:そうですね。コハダを知ってる方もいれば、ひたすらサーモンだけを頼む人もいたり。あと、ベジタリアンの人が来た時に、みょうがの甘酢漬けでお寿司を作ってあげたり。幅広い人に対応できるお店を目指しています。
池田:野菜寿司の授業も役に立ちました。授業中は必要なのかなと思ってたんですよ。ちょっとだけね。必要でしたね。お寿司屋さんでも妊婦さんが来ました。
佐久間:全部炙ってくれって。
池田:ほぼ焼き魚だったんですけど。喜んでもらえました。
佐久間:うちは銀座にありますし、敷居が高そうに見えますが、誰でもウェルカムなお寿司屋さんを目指しています。
インバウンドツアーが盛況
ーーー 今は銀座も新宿もインバウンドのお客さんがすごいじゃないですか。
佐久間:すごいですね。
ーーー 本業のインバウンドツアーはどんなことをされるんですか?
佐久間:居酒屋に一晩で3軒回るんですね。
ーーー 3軒も?
佐久間:1つのコース料理をいろんなとこで食べるイメージなんですけど。待ち合わせして、ついてこい!って言って、1軒目はビールと焼き鳥だー!2軒目は寿司と日本酒だー!って言って、日本酒の説明をしたりとか。そういう食文化の背景とか、日本の給食の話をしたりとか。のれんって何でかかってるんでしょうかとか。ただの飲み会で終わらないように。学びがあるように、資料を用意してます。
ーーー そういうお客さんを鮨八さんにもお流しするんですね。
佐久間:そうですね。普段行くお店は本当にローカルっていう感じなんですけど。今日は旅行会社さんに宣伝も兼ねて来てもらいます。2、3貫たべてもらいながら、お酒飲んでもらって。良かったらお客さんを送ってください、ツアーで使ってくださいっていう感じですね。
ーーー そういった集客の機能もあるので鮨八さんはすごく忙しいっていうことですよね。
佐久間:忙しいです。
佐久間:もう人が足りなすぎて。アヤカちゃんの妹ちゃん。17歳の妹も一緒に働いてくれて。
池田:助けて。お姉ちゃんの手伝いしてって。
ーーー すごいですね。池田家をあげて仕事をしてるんですね。
池田:お客さんも見守ってくれるみたいな。
応援してくれる人に来てほしい
ーーー 食べログのメニューの説明欄に、前任の職人の不在により、若き職人が中心となって…って書いてますよね。あれは隠したいじゃないですか?でも正直に書かれていますよね。
佐久間:銀座ということもあって、目も舌も肥えたお客様が来店されることがあります。私も一時期、着物を着て立ってたら女将の着物も安もんだよねと、厳しいご意見をいただくこともありました。
そういう方から、頑張ってる絢香ちゃんが責められて、私やっぱり無理ですってなって欲しくないと思って。彼女を応援してくれる人にだけ、来てもらいたくて、入口にもそんなメッセージを書いて貼っています。若手の職人が一生懸命頑張ってるので、分かる人だけ、応援する人だけ来てくださいと。
ーーー 池田さんは安心しますね。
佐久間:うちとしては楽しいお寿司屋さんを目指したいなと思っておりまして。静かで緊張感のあるお店が好きじゃないっていう方も来てくれたりします。お店の名前も何回変えたか分からないんですけど、最後の最後に名前を変えようと思っておりまして。
池田:変えるんですか?
佐久間:鮨八は前の大将が選んだ名前なので。でも、今は彼女がメインでやってもらってて、お店の方向性も変わっています。オーナーが女性ですし、チームワークを重視したお店にしていきたいと考えてます。なので、今考えてるのは『銀座鮨Sakura』。女性らしさを表現した名前に変えようかなと思っております。
ーーー 池田さん体制になってから1ヶ月です。いかがですか?
池田:喋ってると自分の手が止まっちゃう。
佐久間:そうなんだよね。あと、集中すると真顔になっちゃう。
ーーー 手を動かしながら喋るのは、難しいみたいですね。ベテランの職人さんも最初は難しかったって言ってます。
池田:それが一番の課題です。
佐久間:お客さんもすごい話しかけてくるんですよ。大変だよね。
ーーー 場数を踏むしかないですよね。佐久間さんにもっとお客さんを誘客していただいて鍛えるしかないですよね。
人材を募集中
佐久間:そうですね。私の課題としてはまだ人が足りないので、彼女の負担が大きくなっています。できたらもう1人、2人、入っていただける方を探しています。いい人に来てもらうのがやっぱり難しい。
ーーー スタッフさんを現在、募集中ということですが、どんなポジションで、仕事内容なのか?鮨八さんで働く魅力を聞かせてください。
佐久間:コンサルの方から教えてもらえたり、他にもお寿司屋さんの知り合いがたくさんいるので。その日の講師みたいな感じで来ていただいたり。皆さんのスキルアップがしっかりできるような体制は整えています。仕事ができることは大事なんですけど、それよりはチームワーク重視で。
池田:みんな平等で。
佐久間:縦を作りたくないっていうのがありますね。絢香ちゃんは柔軟性があって。何事にも意欲的で。どうする?って言ったら、絶対やりますの人なんですね。人って楽な方に逃げがちなんですけど彼女はそれをチャレンジしてくれるので。そういう方がいいですね。
池田:すしアカデミーを卒業できれば全然大丈夫。あのテストを超えられれば。
佐久間:びっくりしました。こんなにできるんだって。
ーーー 作ったことのないメニューも一緒に考えて作るわけじゃないですか?経験値が無いと作れないのかなと思ったりしますが。
佐久間:経験があると逆に、固定観念に囚われたりしてしまうので。今までのベテランの職人さんはそうでした。正しいやり方を学ぶのも大事なんですけど。それだけに囚われずチャレンジしてもらいたいです。王道のお寿司屋さんは沢山あります。ウチは違う路線を行くってはっきりしとけば。王道を食べたい人は来ないんですよね。ウチはそれでいいんです。
ーーー 池田さんのアイデアが活かされた一品料理はありますか?
池田:茶碗蒸しの後入れのシャリです。リゾット風にして食べます。失敗してもいいんです。失敗から生まれることもあるじゃないですか。
ーーー 失敗を失敗と思わずに突き進むっていうことですよね。池田さんは、お仕事は楽しいですか?
池田:楽しいです。毎日が学び、毎日が発見で。楽しいです。めぐさんにはこの環境を感謝してます。
佐久間:私も絢香ちゃんがいなかったら店を閉めてました。もう疲れたと思って。
ーーー 鮨八さんは店名を変えられるそうで。
佐久間:はい。『銀座鮨Sakura』になります。4回目ぐらいの名前変更。『鮨しのび』『鮨さくま』『鮨八』です。
ーーー 本田さんはいつぐらいに働かれてたんですか?
佐久間:本田さんは8月9月10月その辺ですね。
ーーー アカデミーを卒業してすぐぐらいですね。彼女はどういったお仕事を担当されてたんですか?
佐久間:彼女も、色々覚えたいっていうことだったんですけど。その時は若い大将の子がいて。その方から教えてもらいながら、仕込みをして、握るのは大将っていう形でしたね。
※杉田講師が登場
池田:あ。
杉田:おお!
池田:お久しぶりです。
ーーー 今すごいんですよ、池田さん。銀座のお店でヘッドシェフですよ。
池田:やばくないですか?絢香握ってる。銀座で。
杉田:本当に?
佐久間:彼女、すごいんですよ。
ーーー 当時から堂々とした子でしたよね?
杉田:あのね。褒められないとダメなんです。褒めて褒めてって。
佐久間:褒めて伸びるタイプだよね。そうだよね。
編集後記
チャンスは突然やってきます。準備をしていても、していなくてもです。池田さんは前任の板前さんが来なくなってしまったあの日、カウンターに立たない選択肢もありました。でも、やりました。そして、自らの有用性を示すことに成功しました。
東京すしアカデミーでは技術力を身につけることはできます。しかし、お客さんの前で怯まずに寿司を握る度胸は、本来、現場でなければ育まれません。彼女の類まれな才能が見つかった瞬間でした。皆さん、恐れずに行きましょう。失敗しても良いんです。失敗を失敗と思わずに突き進むことが、人生を切り開くためには重要です。若い彼女から学ばせていただきました。
鮨八 改め、『銀座鮨Sakura』さんでは現在、スタッフさんを募集中とのことです。失敗とチャレンジが推奨されている社風です。丁寧に仕事を教えてくれる先輩はいませんが、この環境を楽しめる人にはおすすめです。気になる方はお店のInstagramをチェックしてみてください。